遺伝の仕組みをわかりやすくポイント解説

遺伝の仕組みの基本は以下を読めばざっくり理解できます。

まず最初にざっくり言うと

書いていてちょっと長くなってしまったので、まず最初にざっくり版を記します。詳しく知りたい人は続きも読んでみてください。

  • 遺伝情報は染色体というものに書かれている。
  • 人は染色体を2本1セットで全部で46本23セットもっている。
  • 同じセットの2本の染色体には体の同じ部分に関する情報が乗っている。例えば血液型とか髪の色とか。2本のうちどちらが優先されるかは優性劣性の法則などによって決まると考えられているが、法則の全てはまだ解明されていない。
  • 精子や卵子を通して子供に渡せる染色体はその半分。1セットの中の2本のうち1本が選ばれて合計23本が子供に渡される。
  • 渡される2本のうちの1本が、父親から貰ったものか、母親からなのかは偶然で決まる。
  • 子供からすると、両親から23本ずつもらい合計46本で23セットとなる。つまり、遺伝情報は両親から均等に二重で貰う。
  • 上に書いたとおり、二重でもらった情報のどちらが使われ発現するかは解明されていない法則によって決まる(と考えられている)。
  • 子供にとって親から貰う遺伝情報の組み合わせは70兆通り。二人のきょうだいで遺伝情報が完全に一致する確率も70兆分の1。ちなみに一卵性双生児は完全に一致している。
  • 遺伝情報が人間を形作るためにどのように使われているかということについては、まだまだ分かっていないことが多い。

遺伝情報は染色体というノートのようなものに書かれている

染色体というのは、体の設計図(遺伝情報)がひとまとめになったノートのようなものです。そのノートの中に、色々な遺伝情報が書かれています。例えば血液型、髪の色、目の一重二重などのわかりやすいものから、いまいち解明できていないものまで、その情報数は数万とも言われています。

人間はその染色体というノートを2本で1組、23組(46本)持っています。23組のノートには番号が振られています。1組目は1番染色体、2組目は2番染色体などと呼びます。

同じ組に染色体が2本あるということは、体の同じ部分に対する情報を二重で持っているということです。例えば血液型に関する情報は母親由来と父親由来の二つを持っています。二つのうちのどちらが使われるかは、優性劣性などの法則によってきまっています(後述)。

子供は遺伝情報を両親から均等に二重でもらう

上記のように染色体は1つの組に2つありますが、そのうちの片方をお母さんから、もう一方をお父さんからもらいます。

卵子と精子にはそれぞれお母さんとお父さんの染色体が入っています。ただし、その染色体は組になっておらず1番染色体から23番染色体までの23本しかありません。卵子の23本と精子の23本が組み合わさり、子供の46本(23組)となるわけです。

これはどういうことかというと、子供は必ず母親と父親の両方の遺伝情報を均等に二重で受け継ぐ、ということです。

「染色体の一部は両親どちらのものでもなく、子供オリジナルのものが作られる」という話を複数の人から聞いたことがあります。都市伝説的に広まったものかもしれませんが、基本的にはオリジナルが作られることはありません。ただし遺伝情報の交叉(後述)や突然変異によって、母親、または父親のものと違う遺伝情報ができてしまうことはあります。

性別は精子が持っている性染色体(23番)で決まる

生まれてくる子供の性別は23番染色体によって決まります。なので23番染色体のことを性染色体と言ったりします。

卵子の23番染色体は全てX染色体というものなんですが、精子の23番染色体はXの場合とYの場合があります。沢山いる精子の中でXとYがおよそ半数ずついるんです。卵子に受精したのがXの場合は女の子、Yの場合は男の子になります

つまり、子供の23番染色体は以下のようになります。

  • 女の子:XとXの組み合わせ
  • 男の子:XとYの組み合わせ

二重にある遺伝情報のうちどちらを使うか(優性劣性)

優性劣性は学校の授業で聞いたことがあるかもしれません。二重にある遺伝情報のうち実際に使用されるほうが優性で、使用されないほうが劣性です。優れているから優性、という意味ではありません。

優性劣性の例をあげてみます。

  • 一重まぶた、二重まぶた・・・・二重が優性
  • 髪の色・・・・・・・・・・・・濃い色のほうが優性
  • 目の色・・・・・・・・・・・・濃い色のほうが優性
  • 血液型・・・・・・・・・・・・Oが劣性。AとBが優性でAとBの間には優劣がない。

血液型については、例えば以下のようになります。

  • 母親からA、父親からOの遺伝情報をもらうとAが優性なので子供はA型
  • 母親からA、父親からBの遺伝情報をもらうとAとBには優劣がないので子供はAB型
  • 両親からOの遺伝情報をもらった場合のみ子供はO型

精子や卵子の遺伝情報は減数分裂よって作られる。

精子や卵子のことを生殖細胞と呼びます。

上に書いたように、お父さんもお母さんも基本的に1組2本で23組合計46本の染色体を持っています。生殖細胞を作る時には、この46本の染色体が23本ずつ2つに分裂します。これを減数分裂と言います。

分裂でできる2つの生殖細胞をそれぞれAとBと呼ぶとすると、1番染色体の2本のうち片方がAへ、もう片方がBへ分裂します。2番〜23番までも同様です。そうして23番まで1本ずつしかない2つの生殖細胞(AとB)ができるわけです。

卵子の場合はそれが月に1つ排卵されます。精子の場合は億単位のものすごい数が日々分裂によってできます。

ところで、男性の23番染色体はXとYの組み合わせでした。それが分裂によって分けられるので、精子は23番がXのものとYのものが半数ずつできるんです。女性の23番はXとXの組み合わせなので、分裂してできる卵子の23番も必ずXです。

子への遺伝情報の組み合わせは少なくとも70兆通り

精子や卵子に入っている23本の染色体。これの組み合わせパターンは何通りになるでしょうか?減数分裂によって2本のうち1本が選ばれ、それが23番まであるので、2の23乗で8,388,608(約840万)通りです。

そして840万通りの精子と840万通りの卵子が組み合わさるので、子供の遺伝情報の組み合わせは、

8,388,608×8,388,608=70,368,744,177,664(約70兆)通りとなります。実際には交叉(後述)や突然変異によって、このパターン数はもっと多くなります。

外見も性格も全く似てない兄弟がいるのもうなずけますね。

ちなみに一卵性の双子は遺伝情報が完全に一致しています。なんか凄いことのように思えますね。

遺伝情報の交叉(組み換え)

卵子や精子を作る時に減数分裂をすることは上に書きました。この減数分裂の際に、同じ組の2本の染色体の一部同士が入れ替わることがあります。

染色体は遺伝情報が書かれたノートのようなものです。1番染色体のうち1冊目のノートは母親から、もう1冊は父親から受け継いでいます。それが減数分裂の時に母親ノートと父親ノートの5ページ目同士が入れ替わってしまうようなものです。

この交叉によって母親ノートと父親ノートが混ざり合ってしまうんです。こういったことが起こるため、遺伝はより複雑になります。

色覚異常などの遺伝疾患が男性に多い理由

赤緑色覚異常は男性にしか発現しないという認識の人は多いと思いますが、その理由も今まで書いた遺伝の仕組みを知ればわかります。そして仕組みを理解すると、頻度は少ないながら女性にも起こることがわかります。

色覚異常になるかどうかは23番のX染色体に書かれている遺伝情報によって決まります。そしてその遺伝情報は劣性です。女性はX染色体が2本あり、男性は片方がYなのでX染色体は1本しかありません

どういうことかと言うと、女性はXが2本あるのでそのどちらか1本が色覚異常でも、もう1本が異常でなければ色覚異常は発現しません。2本とも異常の場合のみ色覚異常となるんです。でも男性はXが1本しかありません。その1本が異常なら必ず発現します。これが色覚異常が男性に多い理由です。

色覚異常の他にも、血友病、筋ジストロフィー症なども同様のメカニズムで発病するので男性に圧倒的に多い病気です。逆にリウマチなどの自己免疫疾患は女性に多く、それも女性特有の遺伝の仕組みが作用していると考えられています。

Y染色体は男性によって代々受け継がれる

上に書いたように男性の23番のY染色体は間違いなく父親から受け継がれます。その父親のY染色体も間違いなくその父親から受け継がれています。つまり、男性の先祖をたどると全て同じY染色体を持っていることになります

ある調査によると、ユーラシア大陸には同じY染色体を持っている人が広い範囲で分布しているらしく、そのY染色体はユーラシア大陸をまたがるモンゴル帝国を作ったチンギスハンのものではないか、なんて言う研究者もいるそうです。

ただ、Y染色体というのは性別を男性に決定する鍵となるSRYという遺伝子が存在しますが、それ以外の生存に関わる情報はほとんど乗っていないそうです。つまりあまり重要な情報が乗っていないノートというわけです。

ミトコンドリアDNAは女性によって代々受け継がれる

人間の細胞の中にはミトコンドリアというものがあります。このミトコンドリアのDNAは、人間のDNAとは別のものを持っています。そのためミトコンドリアは人間とは違う別の生命で、人間に寄生して共生している、という説もあるようです。

このミトコンドリアDNAは母親からのみ受け取ります。つまりY染色体の逆で、女性の先祖をたどるとみな同じミトコンドリアDNAを持っていることになります。

さて、このミトコンドリアは何をしているかというと、運動などに必要なエネルギーを作っているんです。僕達がご飯を食べるとそれがどんどん分解されていき、ミトコンドリアがエネルギーにしているんです。ミトコンドリアの性能が運動エネルギー産出性能を決めているとも言えます。

僕はカープファンなんですが、カープのスカウトは野球選手の卵を評価する時、その母親の運動歴や体格を重視する、という話を聞いたことがあります。多分、長いスカウト活動の中で経験的に編み出された評価基準なんでしょうが、ミトコンドリアの性能が母親から遺伝すると考えると、科学的な裏打ちがある気がしてきますね。

実際は遺伝情報がどう使われているかは謎の部分も多い

今まで書いてきたことは、基本的な遺伝の仕組みです。実際、遺伝情報がどのように使われて人の体ができているかは、まだまだ謎の部分が多いようです。

例えば、同じ皮膚の細胞でも一部は母親由来、別の一部は父親由来の遺伝情報が使われていて、それらが肉眼では区別がつかないくらい混在している、ということもあり得るそうです。

ABO血液型や髪の色などはわかりやすく発現するものなので、遺伝の仕組みもわかりやすく、現段階でもほぼ解明できていると言えるようですが、複雑な能力、例えば「知能」などは、色々な遺伝情報が複雑に関与しているようで、遺伝の仕組みは解明できていないようです。

もちろんそれは当たり前の話で、そもそも「知能」とはなんなのかという定義が確立できていないのだから無理もありません。

発達障害なども遺伝が関わっているようですが、その原因となる遺伝子が複数ある「多因子遺伝」と考えられ、現在も研究が続いています。

思ったこと

人と話していると「知能は母親から遺伝するんだって」「お父さんが発達障害の男子はおなじように発達障害になるんだって」などということを聞いたりします。

そういった話を「ほんまかいの」と訝しく思ったことをきっかけに色々と調べ、僕の理解した範囲でこの記事としてわかりやすくまとめたつもりです。

上に書いてきたように、知能などの複雑なものがどのように遺伝するかは解明できていないにも関わらず、そういった話は都市伝説的に流通し、信じられているように思います。

なんででしょうかね??

遺伝子というものの解析が進んだと言われ、遺伝子組み換えによる農作物なども流通するようになって、なにか生命の全てがデジタル的に解明されているような感覚を多くの人が持っているから、そういった情報を信じてしまうのかもしれません。元々そういう誤情報がどこから湧いてくるのかはわかりませんけど。

この記事に書いたような遺伝の仕組みと、遺伝子分析の現在を知っておくと、こういった嘘くさい情報に対する抵抗力がつくんじゃないかなーと思ってます。

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