本の要約
教科書を抜粋して翻訳しているだけあって、内容は端的で濃いです。ざっくり要約というかエッセンスを抽出すると・・・
- 社会はみんなの力で変えることができます。
- 変えるには同じ意見の人を増やす必要があるので、意見はどんどんネットなどで発信しましょう。
- 人に影響を与える意見を発するには、正しい知識を入れ、正しい文章が書けるようにならないといけません。だからみなさんは勉強するのです。
- 自由に意見が言える民主制というものを大切にしましょう。
- お金には限りがあるので、欲しい物に優先順位をつけることは必須です。
- 生活に必要なお金を得ることが難しい人には生活保護が支払われます。
- 世界には貧困にあえいだり、国家から弾圧を受けている人々がいて、その中にはスウェーデンのような国に来たいと思っている人もいます。
- 色々なことを政治家は決めますが、政治家を選ぶのは私達ですから、私達自身が決めたとも言えます。
- 意見の合う政治家がいなければ自分が政治家になっても構いません。
- スウェーデンの投票率は85%(日本は53%)です。過半数の人が投票に行かなかったら民主制はどうなってしまうでしょうか?
- 政治には妥協もあります。妥協とは「全員が少しずつ譲歩し、全員が少しずつ自分の望みを叶えること」です。
- 法律というルールは社会がより上手く機能するためのもの、ひいては私達が協力しやすくするためのものです。
- 今のスウェーデンでは生きるために盗むということは必要ありません。ではなぜ人は今も犯罪を犯すのでしょうか?考えてみましょう。
思ったこと
最近の日本の小学校の教科書を読んでないので、30年前の自分が小学生だった頃の教科書の記憶と比較しながら読みました。日本と違うなと思った点は、いたるところで「考えてみましょう」と書いてあることです。
日本で今後学習指導要領に取り入れられると言われるアクティブラーニングや主体的・対話的学びっていうのも、こういう「考えてみて、話し合って、発表する」という学び方ですよね。
また、自分の意見を述べることの大切さが繰り返し述べられていて、良い意見の前には良い思考、良い思考の前には良い学習があるという、教科書に通底する思いがうかがえます。
日本の教育の場でも繰り返し子供に伝えてほしいなー、と思ったのは「君たちが勉強する理由」についてです。良い大学に入るためでも、良い会社に入るためでもなく「あなたの意見を人にきいてもらうため」
本当にそのとおりだと思います。
「昔の学校は宿題をやってくることがもっとも良いことだとされていました」
と書いてあるのもドキッとします。学校においても宿題より重視されることがある、というわけですね。
と、まあここまではこの本の伝えたいことを正面から受け止めての感想ですが、少し別の角度からも書いてみます。
この記事によると、スウェーデンの教育は地方によって随分違うようです。この本の内容が標準的なものなのか、どこかの先鋭的な地方のものなのかはわかりません。
小学校の教育とはちょっとズレますが、上記記事の「大学の授業料は無料。しかし日本より高卒すぐの大学進学率が低い」というのは良いことだと思います。要するに「大学は無料なんだから、勉強したいと思った時に行こう」ということでしょう。日本は親の庇護で大学に行くので、親が稼げているうち、つまり高校を出てなるべく早く大学に行く、ということになってしまうのかもしれません。新卒就職という企業側が作った文化の影響も大きいでしょうけど。
経済協力開発機構(OECD)が実施している学習到達度調査というものでは、スウェーデンは先進国の中でも下位だそうです(記事)。
これも、地方分権教育の弊害だとか、移民が国としての平均点を下げているだとか言われているようですが「詰め込み型」のカリキュラムじゃないことも影響しているでしょう。
以前このリーディングスキルテストの記事でも少し触れましたが、こういったアクティブラーニングっぽいものは、ついてこれなかった生徒の学習成果がほとんどない、という批判もあるようです。以下新井紀子先生の文章を引用。
現在、声高に叫ばれているアクティブラーニングは、第2次 大戦直後の進駐軍時代の日本において「生活単元学習」という名のもとで実践された教育に極めて似ている。しかし、「学んだ知識を、社会の現象に当てはめて問題解決したり、検討・議論したりする」ことを重んじる生活単元学習に対しては、「日本人の学力を著しく低下させている」との批判が巻き起こり、1960年代には系統的な学習指導要領に修正されたとの歴史がある。教育現場の実感としては、生活単元学習の理想は「絵に描いた餅」であり、すでに能力が高い子どもはさらに能力を高めるが、それ以外の子どもは何らスキルを身に着けることができないことが問題視されたのである。
「デジタライゼーション時代に求められる人材育成」より抜粋
と、まあ批判もあるとはいえ、日本の12分の1しか人口がない国でも国際的に存在感を発揮しているのには何かの理由があるはずで、日本国や日本人も良いと思えたところはうまく取り入れていきたいものですね。